意識の機械への接続とハードプロブレム

最近、渡辺正峰氏(『脳の意識 機械の意識』著者)がスタートアップ(MinD in a Device)を始められたという記事が有りました。非常に有意義なプロジェクトだと思います。ここでは、『機械と脳の接続』から『人間の意識を機械にアップロード』の話まで話題になっていますが、特に『機械と脳の接続』に注目し2つ考えたことが有ったのでメモしておきます。


■1 ひとつめ:機械から直接脳に信号をinputする時、その結果、意識(のようなもの)を機械側の主観で感知したとしても、その感じたものが脳側の処理で生じたものとどのように峻別すれば良いかが課題と考えられること

機械と脳の片半球を接続して意識を感じた時、「機械側で意識が処理されたのではなく脳側で処理されたのでは?」という反論に対しどう再反論できるでしょうか?例えば機械側の視覚情報を脳側の視覚野にinputする場合は当然そう思われるでしょう。(逆に人の分離脳の場合では(現時点実証されていませんが)、完全に分離していれば反対側の処理は感知できないと思われるので、同じ視覚野に機械側の情報が入っている時、意識自体が人側で処理されたのではと感じるのはむしろ自然だと考えられます。)

情報をどこに入力しそれをどう観測するかが鍵だと思います。4つのケースを書いてみます。
脳梁への入力…信号が反対側の脳の対称部位を発火させるのか?脳側の処理「の一部」を使用して、機械側の意識を確認する。
脳梁への入力…脳梁を通る信号が、高次のエピソーディックな情報を持っているのか?(あまりそうは考えていませんが)
(①ではない方法で特別の部位が反対側の信号を「それ」と理解できる?)
脳梁を通らない他の回りこみ入力の場合…で①と同様に反対側の脳の対称部位を発火させる?
④その他

※①は脳梁入力と書きましたが(視覚の場合は)視覚野に繋がる神経細胞入力を意味します。理由:他の個体へ繋げてon-off情報のみにすると、感圧/明暗等の区別がなくなるため…脳側で明確に視覚入力と判断するために他ではなく視覚野への入力が必要。(一方で機械側では情報はセンサとひも付きになっていて感圧/明暗等の区別は(結果的に)明確になっています。)言い換えると、脳梁などの広範囲に入力した場合、脳側ではどのセンサ由来の情報か辿れないため、感圧なのか音圧なのか全部なのか峻別できません(広範囲にスタンガンをくらったような感じでしょうか?)。

機械側の情報をうまく分離するためには、一般的にはfMRIなどで機械側の情報の流れが脳側の一般的なV1から始まる経路の一部をskipする等の特殊なふるまいを見付ける必要が有りそうです。

※ところが、別案が有り、(このプロジェクトの『機械と脳の接続』の目的が脳側で機械側がちゃんと意識を処理できていることの実感であることから…脳片半球の視覚野を生体のまま残しておく必然性は薄いと考えると…)両半球とも機械にすれば最初の峻別の話はクリアしそうです。そうなると課題は、機械の半球と脳半球の接続ではなく、対象の感覚野を機械に置き換えて(両半球に有る場合は両方とも)その感覚の意識を脳側(この場合は生体の視覚野を除いた脳)で処理できるかどうかということになりそうです。

もとに戻りますが、機械から脳半球の視覚野に入力してしまうと、「意識」の処理が機械と並行して脳半球側でも処理されるため峻別が難しくなります。そして両視覚野を機械化する対策が考えられますがこれもかなり高いハードルです。そして、うすうす気づくと思いますが、これはハードプロブレムが絡んでいます。

 

■2 ふたつめ:ハードプロブレム(HP)について(■1の記述で、(一個体内では)脳内(または機械内)で視覚情報が、感圧や明暗等の情報と明確に区別されている…というあたりに関連して)。

『機械と脳の接続』で、input信号に何を使うか?を考える時、意識の実装を考慮しなければなりません。機械側で、一つの色(赤ならば赤)を赤であると理論的に処理する方法は現時点無いというのが一般的な認識だと思います。(ハードプロブレム…3色の錐体細胞に相当するセンサを持つことで結果的に色を感知するようになるのかもしれませんが、現時点理論的にこれを説明する方法は無いと思います…結果的には、赤を感じている脳をfMRI等で見れば発火している神経細胞を特定できることで、赤以外を感じている状態からは区別できると思います…がその感覚の内容自体を理論的に誤りなくイメージできるわけではありません。)ハードプロブレムについては、簡単に言えば、虹の色の順番を理論的に説明する方法は無いということだと思っています。

今日時点でのWikipediaなどの一般的に見つかる資料では、意識の物質による説明が困難なことをハードプロブレムと呼ぶように記載されていますが、(わかるひとはわかると思いますが)近年の研究では、情報の関係性から多くが説明できるとする考え方も有り、この方向からもう少し分析的に検証する必要が有ると考えています。

ここから今回僕が考えたことを書いていきます。現状で虹の色を実装しようとするとハードプロブレムのため壁が有りますが、一方で、感圧/音圧/モノトーンの点描で示された形状、等、段階的な強度情報だけで形示すことができる場合はどうでしょうか?色などを考える場合とは異なっているように見えます。ここが鍵かもしれません。

一方で「嗅覚・味覚」などは、先の視覚の「色」と同様、信号の内容(赤ならば赤…と同様)を処理するのは難しいと思います。本来は、機械に色を意識させて、それを脳で確認できれば(色というのは意識の中でも最も話題になりやすく、逆に言えば色を意識できないと意識できるとは言えないという人さえ居そうですから…)最も良いのですが現時点難しそうです。これを避けて、「濃淡・形状」や「感圧・音圧」を対象とする選択は検討に値するでしょうか?併行して第2ステップで色などは検討可能と思います。

ここから本題…これまで何度かハードプロブレム(の特に一部)については「溶ける」兆しが有ることをtwitterで書いてきました… 感圧や、視覚の内のモノクロの明度などは、センサが強度を感知した際にそれが(感圧/明暗などの)ラベルがついていれば溶けると書いてきました。少し整理しておきます。

整理すると、ハードプロブレムが溶けると分類されるのは以下のB群です。
A. 視覚の内『色』、嗅覚、味覚(強度以外のいわゆる質感に関するもの)
B. 視覚の内『明度、大きさ、形状』、聴覚の内『強度、リズム』、感圧
C. 聴覚の内『高低』(一次の関係で示せそうですがこれもA群に近い質感か?)

少し補足が必要で
本来は全て感覚質(クオリア)なので依然ハードですが、一部(B群)については『一個体の中だけであれば…物理?的にセンサとひも付きになっているため』他の感覚質から区別でき、かつその感覚の内容自体を誤りなくイメージできるように感じるということです。例を挙げます。

例えば感圧(B群):意識体が(独立した)センサの位置、[センシング対象物理現象]等を理解している前提(一個体の中では、センサが物理?的に接続されていることは、その意識体はセンサ位置、対象物理現象を知っている(これも、区別、及び誤りないイメージが可能)ことを意味する)で、音圧や他のB群の感覚から区別できるという考え。…例えば圧力が有ったか無かっただけであれば…体の一部に圧や加速度を感じるというプリミティブな知覚であれば…その入力に対応する感覚質を誤りなく感じる…ということ。

広範囲にスタンガンをくらったような感じ』ではなく、明暗の場合は発光体が存在し自分との間には遮蔽物が無いとことがイメージでき、感圧の場合は、右肩の感圧センサが反応したらタップされたことをイメージでき、(宇宙空間での体験をイメージすると)さらに首部の曲げセンサが反応したら胴体部に加速度が生じた反応で頭部が置き去りにされたことまでイメージできる。

情報がセンサとひも付きになっていれば[それ以外に考えられないから]そう感じる。…また、微生物等で、感圧や音圧(や強い光も?)が感知される時、初期には逃げの一択だった(どの入力であっても逃げていれば良かった)と思いますが、センサ高度化等により進化すると、感圧と音圧、光で異なる対応が可能になった(その方が生存確率が上がった)という考えです。

また、このB群の強弱や大小の感覚は、例えばセンサが右上、右下、左上、左下に有れば、視野角を4分割して明暗を感知することが可能で、それを細密化することでモノクロのドット絵をそれと認識することも可能と考えられます。また、このドット絵の感覚は同様のプロセスで視覚以外に触覚(感圧)でも認識可能と考えられ、もっと言えば舌表面の対応する脳の受容野の刺激により、舌表面にドット絵を感じることも可能と考えられます。

一方で『色』などのA群:一つの色(赤など)を赤と理論的に処理する方法は現時点見つかっていません(ハードプロブレム)。…3色の錐体細胞に相当するセンサで何の色を感知したか、までは情報が有り、結果的に色を感知しているのかもしれませんが。『虹の色の順番を理論的に説明する方法が無い』ということ。

このように感覚質は大きく3つに分けられて、B群についてはほぼ溶けてきているというのが一つの観点だと思います。ハードプロブレムを考える時、プリティHPのようなその場しのぎのような思い付きからはその後の進展は望めませんが、一つ一つ分析的に考える上述のような方法は一つの解に繋がると思います。

 

今回の件は、渡辺さんの機械と脳の接続プロジェクトのアウトリーチを見てその観点から考察したものです。意識の断片を機械から脳に入力しようとすると、機械側でいったん感覚質まで完成している前提になります(*1)。しかしA群の場合『色』を機械側で『感じた』と言わせるのは困難極まりないでしょう。(周波数はわかりますが機械の中に『真っ赤な』色が広がっているわけではありません。)一方でB群(感圧/明暗等)を『そう感じた』と言わせるのは証明不要なほど自明に近く一見溶けたように感じるのだと思います。(B群であっても[一個体の中だけ]が前提ですが。)

ただこの信号をネットに流す場合は信号にどのセンサ由来かタグ付けして、出力先が生体の場合は適切な感覚野への出力が必要で、出力先が機械の場合は、そのタグを適切に読み込んでデコードする必要があります。

ここまで。ミニマム/Lower Orderの意識をも意識と考えることが前提ですが((*1)もそうです。IITなどが出てくる話…詳しくは僕のtwitterなどを参照ください。)…このふたつめの考察は、機械への接続を考える際にA群の困難さを避けるアイディアがきっかけでしたが、ハードプロブレムの考察に繋がりました。渡辺さんの研究自体非常に先駆的で課題は多いと思いますが、このような観点の提供自体が、研究の前進に貢献すると考えます。多謝。

このふたつめの考察は…意識の機械への実装まで考えなくて良かった時代(過去の時代)でも頭のなかで思い付くのは可能なので先行研究が有るかもしれません。ただ、ここまで考えると、A群(色など)についてもあと一歩のような気もするんですよね。目の研究との連携とかがまたきっかけになるかも。

疾病などで、虹の色の順番が変わるorずれるというのも無さそうだし(たぶん)。また、可視光下で暮らす生物は(3種以上の錐体細胞が有れば)人と同様な虹が見えているの(紫外、赤外はのぞく)のかも…と依然として思う…だとしたら何?…異星人も含めそうなのか? …疑問は続く。

※補足:色覚異常ではある帯域が判別困難→灰色に知覚等で様々な見え方(赤と緑が判別困難になる等)になると思いますが虹の色の順番入替り等は無さそうです。ただ疾病例は僕は詳しい知見は無いので、それを捜すこともヒントになるかもしれません…3色目の錐体細胞の感度が限界まで低い時に違う色が見えるか等。

 

■1は意識のメカニズムについての問題ではなく、機械と脳を接続するという方法を考える場合の気になる点。
■2も同様に接続する方法(いったん「色」などの問題を避けるか?)についてですが、
こちらは意識そのものの問題(ハードプロブレムをどう考えるか)でもあります。
僕自身は機械と脳の接続を考えるうえで■2についての考察が少し進んだのかなと思っています。今後もこれも含めアウトリーチしていきたいと思います。

※以上、4/6〜4/27頃のtwitterへのpostをもとに加筆・修正。

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